媛媛講故事―19

                         
   牛郎と織女の伝説 Ⅰ             何媛媛

 


  牛郎と織女は元々天界の星で、牛郎星と織女星と呼ばれていました。二つの星の間はあまり隔たっていないので、長い間お互いに助け合う内に心が通い合うようになり深い愛を育んでいました。しかし、天界では男女は勝手に愛し合うことは許されていません。それが天帝や西王母に知られたら大変なことになり、二人は厳重な処罰を受けるに違いないのです。


 実は織女は天帝の孫娘で、織物の名手でもありました。天界の仙女たちを取り仕切る西王母は織女に厳しい罰を与えるのをためらい、織女を部屋に閉じ込めて、「この家を出てはいけない!」「色々な種類の霞のような錦を織っていなさい!」と命じました。

 織女が織る織物はそれはそれは素晴らしいものでした。霞のように淡く微妙な色合いに染め上げられているばかりではなく、季節の移ろいと共に、彩りも綾に美しく変わって行くのだそうです。西王母は、織女が織った布を世の女性たちの織物の手本にしようと思い、毎日のように織女の織物を天辺に広げて人々の目に入るようにしました。天空に架かる虹や、霞や、夕焼けなどはいずれも織女が織った織物なのだそうです。


 一方、牛郎も天帝の処罰を受け、人間界に下り、ある貧乏な農民の家に生まれました。牛郎が三歳の頃、両親が亡くなり、兄さんの元に育てられることになりました。しかし、兄嫁は意地悪で冷たい心の持ち主でしたので、幼い牛郎を厳しく働かせたり、牛の番をさせたりして、辛い生活を強いていましたが、ある日、

 「今日は、この九頭の牛を山に連れて行って草を食べさせなさい。でも帰りには十頭の牛を連れて来ないと家には入らせません!」

 と牛郎に強く言いわたしました。

 九頭の牛をどうしたら十頭にすることができるのでしょうか。牛郎が思い悩んでいたところへ長く白ひげを生やしたおじいさんが現れました。

「山の向こうに病気の老牛がいる。ちゃんと世話をしてあげなさい。治れば十頭になる筈じゃろうが」
と告げました。

牛郎が髯のおじいさんの言うとおりに山の向こうに行ってみると、病気の老牛が見つかりました。優しく細やかに何日も面倒を見ているうちに老牛はすっかり回復して元気になりました。牛郎はきっと兄嫁が喜ぶに違いないと思い老牛も加えて十頭の牛を引いて家に帰りましたが、兄嫁は全く働くことのできない老牛を見ると喜ぶどころか却って大変な怒りようでした。
その後何年か経て牛郎がもう少し成長すると、

 「お前はもう大人だ。一人で暮らしなさい。だからといってこの家からは何も持っていってはいけない!」

 と兄嫁が牛郎に強く言い渡しました。牛郎は、

 「私が連れてきた老牛は年をとってすっかり身体が弱っているから多分長く生きていられないと思います。私と一緒に行かせてください!」と頼みました。兄嫁はその老牛はもう使い物にならないと思っていましたので、牛郎の願いを聞き入れ、牛郎は老牛と一緒に暮らすことになりました。

 さて、天界の織女の方ですが、彼女は毎日部屋に閉じ込められて、夜も昼も手を休めることなく錦を織り続けていました。それにしても西王母からの仕事は後から後から続き終わる日が見えません。疲れきった織女は終に西王母に願い出ました。

 「お姉さんたちが懐かしいわ。一緒に河辺で水浴びをさせてください。」

 西王母は、

 「織女は天帝のお孫さんでもあるのだし、お姉さんたちと少しの間遊ばせてもよいでしょう」

と承知しましたので、織女はお姉さん達を誘うと人間界にある壁蓮池という美しい河へ遊びに行きました。

 家を出た牛郎は、日中は老牛と一緒に畑仕事をし、夜は老牛と一緒に食事をし、一緒に寝て、お互いに頼り合って静かな日々を送っていました。寂しい時や嬉しいこと、悲しいことがあった時、牛郎はごく自然にいろいろと牛に話しかけました。老牛は黙々として何も語りませんでしたが、その眼は「うん、俺はお前さんのいうことは何でもよく分かるよ」と言っているような優しい光を放っていました。

 ある日、老牛が突然口を開きました。

 「お前さん、明日の夕暮れ頃、璧蓮池辺の桃林に行ってごらん。桃の実がなっている木に七色の衣が掛けてあるが、それは七人の仙女が水遊びをするので脱いだ衣なのです。その中の桃色の衣を持っていらっしゃい。その衣を着ていた人があなたの妻になる人だよ」

 と言いました。

 実はこの老牛は、もともと天界の金牛星で、天界の規律に違反した為に下界に下されていたのでした。それと知らない牛郎は、老牛の話を聞いて大変びっくりしました。が、決して嘘をいう筈のない忠実な相棒の話なので信じました。(続く)


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